第二二一段。 人の硯を引き寄せて、手習ひをも、文をも、書くに、「その筆、な使ひ給ひそ」と言はれたらむこそ、いと侘びしかるべけれ。打ち置かむも、人悪ろし。猶、使ふも、生憎なり。然、覚ゆる事も知りたれば、人のするも、言はで見るに、手など、良くも有らぬ人の、さすがに、物書かまほしうするが、いと良く、使ひ固めたる筆を、怪しの様に、水勝ちに、差し濡らして、「こはものややり」と、仮名に、細櫃の蓋などに、書き散らして、横様に、投げ置きたれば、水に、頭は、差し入れて、伏せるも、憎き事ぞかし。然れど、 然、言はむやは。人の前に居たるに、「あな、暗。奥、寄り給へ。」と言ひたるこそ、又、侘びしけれ。差し覗きたるを、見付けては、驚き、言はれたるも。思ふ人の事には有らずかし。 다른 사람의 벼루를 빌려다가 잠깐 글씨 연습을 하거나, 편지를 쓰거나 할 때가 있는데, 그럴 때에 '잠깐만. 그 붓은 쓰지..