第三段。 正月一日は、増いて、空の気色、うらうらと、めづらしく、霞み込めたるに、世に有りと有る人は、姿・かたち、心ことにつくろひ、君をも、我が身をも、祝ひなどしたる様、殊に、をかし。 七日は、雪間の若菜、青やかに摘み出でつつ、例は、然しも、然る物、目近からぬ所に、持て騒ぎ、白馬、見むとて、里人は、車、清げに仕立てて、見に行く。中の御門の戸閾、引き入るる程、頭ども、一所にまろびあひて、挿櫛も落ち、用意せねば、折れなどして、笑ふも、又、をかし。左衛門の陣などに、殿上人、多数、立ちなどして、舎人の、馬どもを取りて、驚かして笑ふを、僅かに見入れたれば、立蔀などの見ゆるに、主殿司・女官などの、行き違ひたるこそ、をかしけれ。「いかばかりなる人、九重を、斯く立ち慣らすらむ」など、思ひ遣らるる中にも、見るは、いと狭き程にて、舎人が顔の衣もあらはれ、白き物の、行き着かぬ所は、真に、黒き庭に、雪の斑消えた..