第七段。 主上に候ふ御猫(おほんねこ)は、冠賜りて、「命婦(みやうぶ)の貴婦人(おとど)」とて、いと、をかしければ、寵かせ給ふが、端に出でたるを、乳母(めのと)の、馬の命婦、「あな、正無や。入り給へ」と呼ぶに、聞かで、陽の射し当たりたるに、打ち眠りて居たるを、脅すとて、(馬の命婦)「翁丸(おきなまろ)、何ら。命婦の貴婦人、食へ」と言ふに、真かとて、痴れ者、走り掛かりたれば、怯え惑ひて、御簾(みす)の中に、入りぬ。朝餉(あさがれひ)の間に、上は、御座します。御覧じて、いみじう、驚かせ給ふ。猫は、御懐に入れさせ給ひて、男ども召せば、蔵人(くらうど)・忠隆(ただたか)、参りたるに、(一条天皇)「この翁丸、打ち調じて、犬島へ遺はせ。唯今」と、仰せらるれば、集まりて、狩り騒ぐ。馬の命婦も、苛みて、(天皇)「乳母、変へてむ。いと、後ろべたし」と、仰せらるれば、畏まりて、御前にも出でず。犬は、狩り出..